近年、世界的な政治・経済の不安定化を背景に、各国が貿易政策を見直す動きが広がっています。
特にアメリカは、自国産業の保護を目的とした関税強化の姿勢を鮮明にしており、特定国や特定品目への輸入税引き上げが相次いでいます。
こうした変化は、輸出入をビジネスの柱とする企業にとって大きな影響をもたらします。
本記事では、アメリカからの関税措置に対して「比較的強い株」と「影響を受けやすい弱い株」について、セクターごとの傾向を中心にわかりやすく整理しました。
関税に対して「強い株」とは?──内需と安定収益がカギ
まず、関税の影響を受けにくい、いわゆる「強い株」は、主に以下のような特徴を持つ企業に見られます。
- 内需中心のビジネスモデル
例えば、小売業や不動産、建設業といった国内向けの消費やインフラに依存する業種は、輸出に関わる機会が少なく、関税の影響を直接受ける場面が限られます。ニトリやイオン、大和ハウス工業などがその代表例です。 - ソフトウェアやIT関連(国内市場中心)
ハードウェアに比べて輸出比率が低く、クラウドやSaaS型ビジネスに転換している企業は、海外の関税リスクからある程度距離を取ることができます。Sansanやオービック、日本マイクロソフトなどがこの範疇に入ります。 - 生活インフラや医薬品セクター
エネルギーや医薬品といった生活に欠かせない分野では、国内需要が堅調に推移しており、収益構造も比較的安定しています。東京電力、ENEOS、中外製薬、明治ホールディングスなどがその一例です。 - 国内調達型の素材・資源系企業
一部の素材メーカーは、原材料調達から製造、販売までを国内で完結する体制を持っており、外部リスクに対する耐性が高い企業もあります。日本製紙、太平洋セメントなどが該当します。
一方で「弱い株」となるのは?
対照的に、関税強化の影響を強く受けやすい業種や企業には共通したリスクがあります。以下にその傾向をまとめます。
- 自動車産業
アメリカ市場は日本の自動車メーカーにとって最大級の輸出先です。トヨタ、ホンダ、マツダなどの大手メーカーは、完成車だけでなく部品の貿易も多く、関税コストの増大は利益を直撃します。 - 精密機器・電子部品メーカー
キーエンス、村田製作所、TDKといった企業は、製品の多くがグローバルサプライチェーンを通じて製造・流通されています。部品や素材の輸出入に関税がかかることで、原価構造そのものが変わる恐れがあります。 - 機械・産業装置メーカー
コマツやファナックなどは、米中の景気動向や貿易関係に強く左右される業態です。高価格帯の設備は関税によって購買ハードルが上がり、需要鈍化の可能性も否定できません。 - 鉄鋼・非鉄金属
JFEや住友金属鉱山など、鉄鋼・鉱山系企業もまた輸出依存型のビジネスモデルを持っています。特に原材料価格の上昇が重なった場合、利幅の圧縮は避けられません。 - アパレル・繊維関連(輸入依存)
やや異なる観点ですが、ファーストリテイリング(ユニクロ)などは、製品の多くをアジア地域で製造し、日本やアメリカに輸入しています。輸入側に課される関税はそのままコスト増につながり、販売価格や利益に影響します。
投資家が注目すべき視点
では、関税リスクが高まる局面で、投資家が銘柄を選ぶ際には何に着目すれば良いのでしょうか。
- 決算資料で「地域別売上比率」や「輸出入の割合」を確認する
- 円安・ドル高など為替の変動に企業がどれほど感応しているかを見る
- サプライチェーンの再編を進めている企業は、中長期でポジティブ材料となる
- 特に米中関係の動向には引き続き注意を払うべき
おわりに
アメリカの関税強化は、日本企業にとって避けがたい外部環境リスクのひとつです。
ただし、すべての企業が等しく影響を受けるわけではなく、ビジネスモデルや取引構造によって耐性には大きな差があります。
株式投資においては、こうした「外部ショックへの強さ」を見極める視点が、長期的な成果を支える鍵になるかもしれません。
関税という不確定要素に対して、どの企業がしなやかに、そして強く生き残るのか——その目利き力が、これからますます問われる時代です。